漫画『鉄鍋のジャン!』は海外でも『鉄鍋のジャン!』だった。海外のレビュー

少年チャンピオンで好評連載された異色の料理漫画『鉄鍋のジャン』。(wikipedia)
料理は勝ってナンボと言い切る主人公・秋山醤が並居る強豪と料理対決を繰り広げるこの作品、海外では『Iron Wok Jan!』というタイトルでDr.Masterから出版されています。
(Iron Wok=鉄鍋)
引用元:animenewsnetwork.com/house-of-1000-manga
「春巻きで勝負よ。あんたの作る春巻きなんか絶対に敵わないものを作ってやるわ!」
~五番町霧子『鉄鍋のジャン!』より~
中華料理は世界中の料理の中でも特にお勧めの料理だ。私の煤と油にまみれた中華なべはいつもコンロの上に鎮座している。
(油は塗っておいたほうがいいのだ。本当に!)
私の冷蔵庫はオイスターソースと唐辛子ペーストでいっぱいで、食器棚には乾燥唐辛子、胡麻油、ピーナッツオイル、米で作った酒が詰められている。
更に言うなら、数年前の私はまだグリルド・チーズサンドウィッチの作り方すら知らなかったのだ。
(みんなご承知の通りチーズを柔らかくしようと一度試してみた事があるのだが、グリルの上に直接チーズを乗せ、あたりに撒き散らしてしまった)
私の料理技術は全て『鉄鍋のジャン!』から取得したものだ。
数年前、私がサンフランシスコにあるアパートで空腹を抱えて座り込んでいたときに全ては起こった。
その頃の私の食生活は主にマカロニ、チーズ、それにチキン・ヌードル・スープから成っていたが、外食するために頻繁に中華街に繰り出してもいた。そして数日前、私は文化人であり漫画の原作者でもあるジェイク・フォーブスに素晴らしい食事を作ってもらっていた。
落ち着かなかった私は『鉄鍋のジャン!』の第6巻を手に取り、登場人物が作っている描写のみを頼りに、ピーマンと牛肉の料理を作ろうとしたのだ。
ジェイクに少しばかり手伝ってもらいながらどうにかそれを作り上げることが出来、今では専門家ではないものの、少なくとも焼き餃子とブロッコリーと牛肉の料理を作ることが出来るようになった。
もう一度言おう、漫画は私の人生を変えたのだ。『めぞん一刻』が私に真の愛についての考えを変え、『ジョジョの奇妙な冒険』が私のファッションセンスを変えたように。
もっとも、私が『鉄鍋のジャン!』から他のこと、不良とのストリートファイトや、絶滅危惧種の密輸、毒蛇料理等の影響を受けなかったのは幸運だったと言えるだろう。
『鉄鍋のジャン!』は時に料理漫画であり、時にバトル漫画であり、多分恐怖漫画の側面もあるのだ。
なによりこれは120%少年漫画であり、大きな叫び声と速い展開、それにキッチンでの負傷に満ちている。
私は全ての料理漫画が好きで、落ち着いた内容の『美味しんぼ』や『ノット・ラブ 』や、美味しいものへの追及としてやりすぎた感のある『焼きたて!!ジャぱん』も好きだが、『鉄鍋のジャン!』はその中でも特にクレイジーだ。
これは今まで出版された中で最もバイオレンスな描写をしたブラックコメディ料理漫画だ。
『鉄鍋のジャン!』の本筋はテレビショーの『料理の鉄人』に似ている。
(これは『鉄鍋のジャン!』の2年前に始まり、日本中で人気となった)
これは闘いを料理に取り替えたバトル漫画であり、中国からの最も有名な輸出物の2つを1つに溶け合わせたものなのだ。
物語は東京にある中華料理店「五番町飯店」から始まる。
オーナーの孫娘である五番町霧子はこのお店の一番シェフであり、美味しい食べ物でみんなを幸福にしようとしているグラマーな女子高生だ。
ある嵐の晩、一人の奇妙な訪問者があらわれる。そのしかめっ面をした青年は1974年の映画『激突!殺人拳』で道場破りをしたサニー・チバのように、誰が一番料理が出来るか五番町飯店のコックに勝負を挑む。
彼は16歳で名前を秋山醤といい、伝説の中華料理人と言われていた祖父の元で、温度を確かめるために焼けるような料理に手を突っ込んだり、何百回も料理を作っては鞭で打たれる等々、地獄のような過酷な修行を耐え抜いてきたのだ。
祖父の死後、彼はその遺言に従いオーナーが祖父のライバルでもあった五番町飯店へとやってきたのだった。

霧子はジャンの挑戦を受けることにし、二人はお互いの中華なべを掴み戦いが始まった!
戦いは終わったが、霧子はジャンの技術に戦慄したのだった。料理長はジャンを雇うことにし、彼もそれを承諾したが彼の同僚に対する侮蔑と嘲笑が止むことは無かった。
彼は想像しうる中でも最も優秀な中華料理人だったが同時に人間のクズでもあったのだ!
新米である彼は他の料理人からジャガイモの皮剥きを押し付けられ不平を言うのだが(彼がどんなに優秀でも新しいレストランでは見習い期間に耐えなければならないのだ)、霧子はジャンを打ち破るために頑固にも彼の側にいることを誓うのだった。
「ジャン、あんたは最低よ!低俗な人間がコックだとその料理も低俗になるわ」
「これが最後の料理勝負よ、霧子さん私が間違っていましたと泣いて謝らせてやるわ」
ジャンは優秀だが完璧であるわけではなく、時々天狗になってはヘマをする。
自分が最も優秀な料理人であると立証することが彼の行動原理であり、彼は彼を助けようとする誰に対してもけんか腰であたり、彼らが自分を憎んでいると言って全てを憎んでいるのだ。
ジャンは彼の幼少期に刷り込まれた強烈な残酷さに打ち勝って友情を手にすることが出来るのだろうか?

感謝したいことにそれは無い。
物語の筋立てがいかれていて主人公が非社交的な性格であった時、多くの人間が主人公に社交的な性格に代わって欲しいと願うが、本当を言えばそんな風になっては欲しくなく、もし主人公が善人になってしまった場合「あぅぅ、甘すぎる」と興味を失い読むのをやめてしまうものだからだ。
(私はこれをDr.ハウス効果と呼んでいる。漫画で体験したければヤマトナデシコ七変化を読むといいだろう)
そしてジャンの場合、彼は早い内に少し親切になるが(特に友人の小此木には。彼は信じられないほど腕は悪いが上機嫌で、激突!殺人拳のテリー・ツルギがジャンだとしたらラットノーズの役どころだ)、結局彼の心は閉ざされ彼に挑戦してくる全ての者に対してますます悪質で不快になっていくのだ!
管理人注:激突!殺人拳は千葉真一主演の格闘映画
こちらが詳しいです。ラットノーズとは日本版で山田吾一のこと。
ジュリー・ディビスはマンガ:コンプリートガイドでこの『鉄鍋のジャン!』をレビューした時に、そのバンパイアのような牙や禍々しい目つき、大きく口を開けた笑い声をまるで悪魔のようだと評した。
彼のトレードマークである笑い声は日本語だと「カカカカカ」や「ケケケケケ」と発する!
彼は他の全ての人間、老人でさえも罵ってみせる。
ジャンは霧子とコンビを組むこともあり、シリーズの中でもっとも良い性格を見せるが、彼らは結局お互いの利害でつるんでいるだけであり、『遊戯王』の様に穏やかな時間を共有する友人同士ではないのだ!
結局のところ、これは全くのバトル漫画であり英雄は彼の技術を打ち負かすことが出来ず、彼の主張を裏付けることになるのだ!
したがって、『鉄鍋のジャン!』に出てくる全てのキャラクターに何らかのテーマがあり、ここに料理に関する彼らの姿勢をまとめてみよう。

「料理は勝負だ!」とジャンはシニカルに笑い、「料理は心よ!」と霧子は熱く反論する。
「いーや、料理はコテコテや!」と言うのは五番町のNo.3コックで中国系フランス人のセレーヌ・楊。
(セレーヌと霧子の二人の巨大な胸についていかなる哲学があるのか私には説明できないが、西条はとにかく大きく大きく、大きく描いている。さながらウォーリー・ウッドの描くパワーガールのように。彼女達は制服の下に魚雷を押し込んでいるようにすら見える)
それから、この料理アクションのドンちゃん騒ぎは27巻にわたって続けられるのだ!
物語は最初のうちこそ普通のレストランの厨房で現実的に進められるものの、すぐに料理の鉄人、すなわち観客で満載の円形のアリーナで行われるトーナメントへと進んでいく。もちろん敵も出てくる。漢方を用いた料理で相手を無力にし殺す道(タオ)使いの五行、ジャンの腕を壊し、その後料理コンテストで彼に挑戦してくる悪漢タイプの蟇目 檀に中華料理マフィアとも言える組織の次期リーダーでもある黄 蘭青。(「料理を制するものは世界を制するんだ!アハハハハハ!」)
そしてもっとも悪党なのが料理を全くしない大谷 日堂。肥え太った料理評論家だが”舌は確か”。
彼は安い加工食品を売って外食産業を支配するためにその名声を利用している。
(大谷はジャンを憎んでいて彼に恥を書かせようとしているが、評論家として彼の料理の凄さを認めざるをえない位の正直者でもあり、そうはしたくないのだが大抵彼はジャンに最高得点を与えている)

これらの敵に相対してジャンは想像可能なあらゆる種類の奇妙な料理テクニックを披露するのだ。
信じられない速度で料理することに加え(例えば、餡と皮を放り投げて地面に落下するまでに空中で餃子を作ったり)、ガス漏れで10フィート(3メートル)もの高さに上がっている火柱に中華なべをかざすような危険を冒したり、毒物を材料に使用して幻覚等様々な効果を肉体に与えたりするのだ。
(「チベット胡椒は胡椒の先祖だ、こいつは味覚を麻痺させない!それ以外の頭からつま先までしびれさせるけどな!」)
ある闘いではジャンとライバルの二人が床に倒れて勝負が終わる。しびれて、引きつれ喘ぎながら。
多分この男向けのシリーズで唯一のヤオイ的なシーンだろう。
漫画の話を続けよう、ジャンと彼の敵は奇妙でショッキングな成分を使用することを好んでいる。
ここで『鉄鍋のジャン!』に出てきた料理をリストしてみよう。
~以下作品中の料理紹介なので割愛~
ここまで上げた全ての料理が実際に美味しそうに見える。それが例え違法とされている動物を材料に使っていたとしてもだ。
クマ肉を専門とするハンター兼料理人はトーナメントの初期で敗れ去るが、全ての登場人物が奇妙なものを料理するのだ。それは虫だったり、食べるときにまだピクピク動いている鮮魚だったり、鳩や、観客の飼っているペットだったりする。
ジャンは料理するために血まみれになりながらそれらを殺すこともしばしばある。
それはトリコのようではないが、準現実的でもあるので、ある意味困ったことでもある。これを読んだ誰もがガララワニを食べることは出来ないが、ダチョウの肉を食べることはあるかもしれない。もしくは鳩の血のゼリーを。
これらの料理は有名ではなく、アメリカナイズされた中華料理でもなく、菜食主義者や動物愛護家のための料理でもない。
そしてその一方で、フードアドバイザーとして料理人でもあるおやまけいこが監修しているにも関わらず、これは正当な中華料理なのかという疑問もわいてくる。
(日本のwikipediaによると、おやまと西条はこの漫画を作っている間色々なことで論争し、西条は時々作画に対して不平をいうおやまのチビキャラを描いている「もっと中華料理を食べに行って下さい!あなたの描く絵は本物には見えないんです!」)
(管理人注:現在のwikipediaでは確認できず)
出てくる料理が本当の中華料理から着想を得ているのか、全てがアジアにおける猿の脳の寿司やローマの皇帝が生きたまま小夜鳴き鳥をパイにして焼いたような幻想なのかは判らないが、作者は料理のインフレを終わらせるために、ますます不安にさせるような料理を思いつき物語を進めていくのだ。
~以下12巻分までの料理のリストを割愛~
ここまでが約半分で、これはまだ衝撃的な内容になる前の話なのだ。
『鉄鍋のジャン!』の狂気はあなたの想像の範囲を超えているだろう。これは冗談のようで、しかし実際そうなのだ。
週間少年チャンピオンは悪趣味な漫画を連載する雑誌として最も良く知られている(少なくとも私にとっては)
『Apocalypse Zero(覚悟のススメ)』、『バロン・ゴング・バトル』、『エイケン』、『えんむす』等々。
彼らは大抵平凡な漫画ばかり出版しているが、ここ10年でもっとも有名なタイトルはどれも血まみれのものばかりだ。
”性的”で”狂気”どうしたらこれを”少年”漫画と呼べるのだろうか。
私個人の見解としては彼らは販売数において少年ジャンプには太刀打ちできないのを知っているため”自分達の上手く出来るものをやろう”と決めたのではないだろうか。
ジャンプのように主流を占める読者層に合わせて柔らかくするよりも、『鉄鍋のジャン!』は暴力とマッチョ、狂気に満ちたセルフパロディの方向へ行っているように見える。
大げさなアートワークと料理アクションはJames Stokoeの漫画『Won Ton Soup』からインスピレーションを得てるように見えるし、あなたは知らないかもしれないが秋山醤のキャラクターデザイン-両者とも牙を持ち、アンチヒロイズムと好みの分かれるガッツがある-はVictor Haoの漫画『King of RPG』を思い起こさせる。
これは飢えと吐き気の間でバランスを取っているような漫画で、主人公には吐き気がし、彼の敵を応援するときにはよだれがたれるのだ(もちろん敵は悪者なのだが)。
しかし、それをどれだけ合わせたとしても、熱く酸っぱいスープ、カシューナッツと鶏肉、ピーマンと牛肉を思う時、その全てが忘却のかなたに行ってしまうのだが。
『鉄鍋のジャン!』は物理的反応を強く引き起こす漫画だ!
どうにか27巻全巻が小さな出版社ComicsOneから出版された(ComicsOneは後にDrMasterとなった)。
発行部数については知らないが、彼らが出版し続けるくらいには良かったに違いない-流石DrMaster!
そしてこれは奇妙にも適切なタイトルでもあった。
DrMasterが伝説の戦士と武道の物語を描いた中国のマンファを出すことが決まっていたからだ。
(ところでジャンの祖父は明らかに日本人だが、ジャンの名前はカタカナで書かれている。それは外国人の名前に用いられているもので、彼が他民族であると示唆しているのかもしれない。多分違うだろうが)
西条とおやまは後に続編である『鉄鍋のジャン!R 頂上作戦』も描いていて、プロットは少なくなり、更に多くの不条理が増えているものの最初のものとほとんど同じである。
しかしながら、これは2つの理由によって私の中では劣ったものとなっている。
1)このタイトルが『遊☆戯☆王R』を思い出させる
2)続編では、ジャンのトレードマークであった短く刈った髪が典型的なツンツン頭に変わっている(合理的な料理人なら絶対にヘアーネットを被せるだろう)
しかし、これらはこの作品を新鮮に、あるいは再加熱もしている。
『鉄鍋のジャン!』は美味であり、料理が好きな人間にとっては典型的な物語で、暴力的で、本物のステファン・コルベアのパロディが満載してるような漫画なのだ。
(管理人注:ステファン・コルベア=アメリカの政治ネタが得意なコメディアン)
※このレビューを描いたJason Thompsonは『OTAKU USA』マガジンの編集者で『マンガ:コンプリートガイド』の作者であり『King of RPGs』の原作者でもあります。
流石にマンガ専門誌の編集者だけあって週間少年チャンピオンの立ち居地を良く理解しています。
バロン・ゴング・バトル、海外でも売られてたんだ…
さて『鉄鍋のジャン!』ですが27巻というボリュームながら全巻出ているところも注目です。
海外では人気がなかったら途中だろうが容赦なく打ち切りますからね。
(あれ…チャンピオンの方針と一緒…?)
作者の西条真二と監修のおやまけいこの確執については文庫版の後書きで触れられているようです。
参照:http://kill.g.hatena.ne.jp/xx-internet/20050409
やだ…かっこいい…
ここまでぶち切れるほどぶつかり合ったからこそ、あの爆弾のような作品が出来たのだと考えると納得がいきます。
作者の西条真二は現在週間少年チャンピオン誌上で恐怖新聞のリメイク『キガタガキタ!』を執筆中です。
『鉄鍋のジャン!』と言えば、作中に出てくる辛くないラー油を実際に作ってみた人もいるようです。
凄く…美味しそうです…
~五番町霧子『鉄鍋のジャン!』より~
中華料理は世界中の料理の中でも特にお勧めの料理だ。私の煤と油にまみれた中華なべはいつもコンロの上に鎮座している。
(油は塗っておいたほうがいいのだ。本当に!)
私の冷蔵庫はオイスターソースと唐辛子ペーストでいっぱいで、食器棚には乾燥唐辛子、胡麻油、ピーナッツオイル、米で作った酒が詰められている。
更に言うなら、数年前の私はまだグリルド・チーズサンドウィッチの作り方すら知らなかったのだ。
(みんなご承知の通りチーズを柔らかくしようと一度試してみた事があるのだが、グリルの上に直接チーズを乗せ、あたりに撒き散らしてしまった)
私の料理技術は全て『鉄鍋のジャン!』から取得したものだ。
数年前、私がサンフランシスコにあるアパートで空腹を抱えて座り込んでいたときに全ては起こった。
その頃の私の食生活は主にマカロニ、チーズ、それにチキン・ヌードル・スープから成っていたが、外食するために頻繁に中華街に繰り出してもいた。そして数日前、私は文化人であり漫画の原作者でもあるジェイク・フォーブスに素晴らしい食事を作ってもらっていた。
落ち着かなかった私は『鉄鍋のジャン!』の第6巻を手に取り、登場人物が作っている描写のみを頼りに、ピーマンと牛肉の料理を作ろうとしたのだ。
ジェイクに少しばかり手伝ってもらいながらどうにかそれを作り上げることが出来、今では専門家ではないものの、少なくとも焼き餃子とブロッコリーと牛肉の料理を作ることが出来るようになった。
もう一度言おう、漫画は私の人生を変えたのだ。『めぞん一刻』が私に真の愛についての考えを変え、『ジョジョの奇妙な冒険』が私のファッションセンスを変えたように。
もっとも、私が『鉄鍋のジャン!』から他のこと、不良とのストリートファイトや、絶滅危惧種の密輸、毒蛇料理等の影響を受けなかったのは幸運だったと言えるだろう。
『鉄鍋のジャン!』は時に料理漫画であり、時にバトル漫画であり、多分恐怖漫画の側面もあるのだ。
なによりこれは120%少年漫画であり、大きな叫び声と速い展開、それにキッチンでの負傷に満ちている。
私は全ての料理漫画が好きで、落ち着いた内容の『美味しんぼ』や『ノット・ラブ 』や、美味しいものへの追及としてやりすぎた感のある『焼きたて!!ジャぱん』も好きだが、『鉄鍋のジャン!』はその中でも特にクレイジーだ。
これは今まで出版された中で最もバイオレンスな描写をしたブラックコメディ料理漫画だ。
『鉄鍋のジャン!』の本筋はテレビショーの『料理の鉄人』に似ている。
(これは『鉄鍋のジャン!』の2年前に始まり、日本中で人気となった)
これは闘いを料理に取り替えたバトル漫画であり、中国からの最も有名な輸出物の2つを1つに溶け合わせたものなのだ。
物語は東京にある中華料理店「五番町飯店」から始まる。
オーナーの孫娘である五番町霧子はこのお店の一番シェフであり、美味しい食べ物でみんなを幸福にしようとしているグラマーな女子高生だ。
ある嵐の晩、一人の奇妙な訪問者があらわれる。そのしかめっ面をした青年は1974年の映画『激突!殺人拳』で道場破りをしたサニー・チバのように、誰が一番料理が出来るか五番町飯店のコックに勝負を挑む。
彼は16歳で名前を秋山醤といい、伝説の中華料理人と言われていた祖父の元で、温度を確かめるために焼けるような料理に手を突っ込んだり、何百回も料理を作っては鞭で打たれる等々、地獄のような過酷な修行を耐え抜いてきたのだ。
祖父の死後、彼はその遺言に従いオーナーが祖父のライバルでもあった五番町飯店へとやってきたのだった。

霧子はジャンの挑戦を受けることにし、二人はお互いの中華なべを掴み戦いが始まった!
戦いは終わったが、霧子はジャンの技術に戦慄したのだった。料理長はジャンを雇うことにし、彼もそれを承諾したが彼の同僚に対する侮蔑と嘲笑が止むことは無かった。
彼は想像しうる中でも最も優秀な中華料理人だったが同時に人間のクズでもあったのだ!
新米である彼は他の料理人からジャガイモの皮剥きを押し付けられ不平を言うのだが(彼がどんなに優秀でも新しいレストランでは見習い期間に耐えなければならないのだ)、霧子はジャンを打ち破るために頑固にも彼の側にいることを誓うのだった。
「ジャン、あんたは最低よ!低俗な人間がコックだとその料理も低俗になるわ」
「これが最後の料理勝負よ、霧子さん私が間違っていましたと泣いて謝らせてやるわ」
ジャンは優秀だが完璧であるわけではなく、時々天狗になってはヘマをする。
自分が最も優秀な料理人であると立証することが彼の行動原理であり、彼は彼を助けようとする誰に対してもけんか腰であたり、彼らが自分を憎んでいると言って全てを憎んでいるのだ。
ジャンは彼の幼少期に刷り込まれた強烈な残酷さに打ち勝って友情を手にすることが出来るのだろうか?

感謝したいことにそれは無い。
物語の筋立てがいかれていて主人公が非社交的な性格であった時、多くの人間が主人公に社交的な性格に代わって欲しいと願うが、本当を言えばそんな風になっては欲しくなく、もし主人公が善人になってしまった場合「あぅぅ、甘すぎる」と興味を失い読むのをやめてしまうものだからだ。
(私はこれをDr.ハウス効果と呼んでいる。漫画で体験したければヤマトナデシコ七変化を読むといいだろう)
そしてジャンの場合、彼は早い内に少し親切になるが(特に友人の小此木には。彼は信じられないほど腕は悪いが上機嫌で、激突!殺人拳のテリー・ツルギがジャンだとしたらラットノーズの役どころだ)、結局彼の心は閉ざされ彼に挑戦してくる全ての者に対してますます悪質で不快になっていくのだ!
管理人注:激突!殺人拳は千葉真一主演の格闘映画
こちらが詳しいです。ラットノーズとは日本版で山田吾一のこと。
ジュリー・ディビスはマンガ:コンプリートガイドでこの『鉄鍋のジャン!』をレビューした時に、そのバンパイアのような牙や禍々しい目つき、大きく口を開けた笑い声をまるで悪魔のようだと評した。
彼のトレードマークである笑い声は日本語だと「カカカカカ」や「ケケケケケ」と発する!
彼は他の全ての人間、老人でさえも罵ってみせる。
ジャンは霧子とコンビを組むこともあり、シリーズの中でもっとも良い性格を見せるが、彼らは結局お互いの利害でつるんでいるだけであり、『遊戯王』の様に穏やかな時間を共有する友人同士ではないのだ!
結局のところ、これは全くのバトル漫画であり英雄は彼の技術を打ち負かすことが出来ず、彼の主張を裏付けることになるのだ!
したがって、『鉄鍋のジャン!』に出てくる全てのキャラクターに何らかのテーマがあり、ここに料理に関する彼らの姿勢をまとめてみよう。

「料理は勝負だ!」とジャンはシニカルに笑い、「料理は心よ!」と霧子は熱く反論する。
「いーや、料理はコテコテや!」と言うのは五番町のNo.3コックで中国系フランス人のセレーヌ・楊。
(セレーヌと霧子の二人の巨大な胸についていかなる哲学があるのか私には説明できないが、西条はとにかく大きく大きく、大きく描いている。さながらウォーリー・ウッドの描くパワーガールのように。彼女達は制服の下に魚雷を押し込んでいるようにすら見える)
それから、この料理アクションのドンちゃん騒ぎは27巻にわたって続けられるのだ!
物語は最初のうちこそ普通のレストランの厨房で現実的に進められるものの、すぐに料理の鉄人、すなわち観客で満載の円形のアリーナで行われるトーナメントへと進んでいく。もちろん敵も出てくる。漢方を用いた料理で相手を無力にし殺す道(タオ)使いの五行、ジャンの腕を壊し、その後料理コンテストで彼に挑戦してくる悪漢タイプの蟇目 檀に中華料理マフィアとも言える組織の次期リーダーでもある黄 蘭青。(「料理を制するものは世界を制するんだ!アハハハハハ!」)
そしてもっとも悪党なのが料理を全くしない大谷 日堂。肥え太った料理評論家だが”舌は確か”。
彼は安い加工食品を売って外食産業を支配するためにその名声を利用している。
(大谷はジャンを憎んでいて彼に恥を書かせようとしているが、評論家として彼の料理の凄さを認めざるをえない位の正直者でもあり、そうはしたくないのだが大抵彼はジャンに最高得点を与えている)

これらの敵に相対してジャンは想像可能なあらゆる種類の奇妙な料理テクニックを披露するのだ。
信じられない速度で料理することに加え(例えば、餡と皮を放り投げて地面に落下するまでに空中で餃子を作ったり)、ガス漏れで10フィート(3メートル)もの高さに上がっている火柱に中華なべをかざすような危険を冒したり、毒物を材料に使用して幻覚等様々な効果を肉体に与えたりするのだ。
(「チベット胡椒は胡椒の先祖だ、こいつは味覚を麻痺させない!それ以外の頭からつま先までしびれさせるけどな!」)
ある闘いではジャンとライバルの二人が床に倒れて勝負が終わる。しびれて、引きつれ喘ぎながら。
多分この男向けのシリーズで唯一のヤオイ的なシーンだろう。
漫画の話を続けよう、ジャンと彼の敵は奇妙でショッキングな成分を使用することを好んでいる。
ここで『鉄鍋のジャン!』に出てきた料理をリストしてみよう。
~以下作品中の料理紹介なので割愛~
ここまで上げた全ての料理が実際に美味しそうに見える。それが例え違法とされている動物を材料に使っていたとしてもだ。
クマ肉を専門とするハンター兼料理人はトーナメントの初期で敗れ去るが、全ての登場人物が奇妙なものを料理するのだ。それは虫だったり、食べるときにまだピクピク動いている鮮魚だったり、鳩や、観客の飼っているペットだったりする。
ジャンは料理するために血まみれになりながらそれらを殺すこともしばしばある。
それはトリコのようではないが、準現実的でもあるので、ある意味困ったことでもある。これを読んだ誰もがガララワニを食べることは出来ないが、ダチョウの肉を食べることはあるかもしれない。もしくは鳩の血のゼリーを。
これらの料理は有名ではなく、アメリカナイズされた中華料理でもなく、菜食主義者や動物愛護家のための料理でもない。
そしてその一方で、フードアドバイザーとして料理人でもあるおやまけいこが監修しているにも関わらず、これは正当な中華料理なのかという疑問もわいてくる。
(日本のwikipediaによると、おやまと西条はこの漫画を作っている間色々なことで論争し、西条は時々作画に対して不平をいうおやまのチビキャラを描いている「もっと中華料理を食べに行って下さい!あなたの描く絵は本物には見えないんです!」)
(管理人注:現在のwikipediaでは確認できず)
出てくる料理が本当の中華料理から着想を得ているのか、全てがアジアにおける猿の脳の寿司やローマの皇帝が生きたまま小夜鳴き鳥をパイにして焼いたような幻想なのかは判らないが、作者は料理のインフレを終わらせるために、ますます不安にさせるような料理を思いつき物語を進めていくのだ。
~以下12巻分までの料理のリストを割愛~
ここまでが約半分で、これはまだ衝撃的な内容になる前の話なのだ。
『鉄鍋のジャン!』の狂気はあなたの想像の範囲を超えているだろう。これは冗談のようで、しかし実際そうなのだ。
週間少年チャンピオンは悪趣味な漫画を連載する雑誌として最も良く知られている(少なくとも私にとっては)
『Apocalypse Zero(覚悟のススメ)』、『バロン・ゴング・バトル』、『エイケン』、『えんむす』等々。
彼らは大抵平凡な漫画ばかり出版しているが、ここ10年でもっとも有名なタイトルはどれも血まみれのものばかりだ。
”性的”で”狂気”どうしたらこれを”少年”漫画と呼べるのだろうか。
私個人の見解としては彼らは販売数において少年ジャンプには太刀打ちできないのを知っているため”自分達の上手く出来るものをやろう”と決めたのではないだろうか。
ジャンプのように主流を占める読者層に合わせて柔らかくするよりも、『鉄鍋のジャン!』は暴力とマッチョ、狂気に満ちたセルフパロディの方向へ行っているように見える。
大げさなアートワークと料理アクションはJames Stokoeの漫画『Won Ton Soup』からインスピレーションを得てるように見えるし、あなたは知らないかもしれないが秋山醤のキャラクターデザイン-両者とも牙を持ち、アンチヒロイズムと好みの分かれるガッツがある-はVictor Haoの漫画『King of RPG』を思い起こさせる。
これは飢えと吐き気の間でバランスを取っているような漫画で、主人公には吐き気がし、彼の敵を応援するときにはよだれがたれるのだ(もちろん敵は悪者なのだが)。
しかし、それをどれだけ合わせたとしても、熱く酸っぱいスープ、カシューナッツと鶏肉、ピーマンと牛肉を思う時、その全てが忘却のかなたに行ってしまうのだが。
『鉄鍋のジャン!』は物理的反応を強く引き起こす漫画だ!
どうにか27巻全巻が小さな出版社ComicsOneから出版された(ComicsOneは後にDrMasterとなった)。
発行部数については知らないが、彼らが出版し続けるくらいには良かったに違いない-流石DrMaster!
そしてこれは奇妙にも適切なタイトルでもあった。
DrMasterが伝説の戦士と武道の物語を描いた中国のマンファを出すことが決まっていたからだ。
(ところでジャンの祖父は明らかに日本人だが、ジャンの名前はカタカナで書かれている。それは外国人の名前に用いられているもので、彼が他民族であると示唆しているのかもしれない。多分違うだろうが)
西条とおやまは後に続編である『鉄鍋のジャン!R 頂上作戦』も描いていて、プロットは少なくなり、更に多くの不条理が増えているものの最初のものとほとんど同じである。
しかしながら、これは2つの理由によって私の中では劣ったものとなっている。
1)このタイトルが『遊☆戯☆王R』を思い出させる
2)続編では、ジャンのトレードマークであった短く刈った髪が典型的なツンツン頭に変わっている(合理的な料理人なら絶対にヘアーネットを被せるだろう)
しかし、これらはこの作品を新鮮に、あるいは再加熱もしている。
『鉄鍋のジャン!』は美味であり、料理が好きな人間にとっては典型的な物語で、暴力的で、本物のステファン・コルベアのパロディが満載してるような漫画なのだ。
(管理人注:ステファン・コルベア=アメリカの政治ネタが得意なコメディアン)
※このレビューを描いたJason Thompsonは『OTAKU USA』マガジンの編集者で『マンガ:コンプリートガイド』の作者であり『King of RPGs』の原作者でもあります。
流石にマンガ専門誌の編集者だけあって週間少年チャンピオンの立ち居地を良く理解しています。
バロン・ゴング・バトル、海外でも売られてたんだ…
さて『鉄鍋のジャン!』ですが27巻というボリュームながら全巻出ているところも注目です。
海外では人気がなかったら途中だろうが容赦なく打ち切りますからね。
(あれ…チャンピオンの方針と一緒…?)
作者の西条真二と監修のおやまけいこの確執については文庫版の後書きで触れられているようです。
参照:http://kill.g.hatena.ne.jp/xx-internet/20050409
実はこのアイデアは西条氏との度重なるやり取りで、ストレスが溜まりまくっていたおやまが出したもの。たぶん限界まで来ていたのでしょう。「どうせなら、オーナーの犬の方がインパクトが」と思わず口を突いて出てしまいました。本当のところは犬ではなく、西条を煮るか焼くかしたかったのですが。
先日、文庫化に伴ってこの「ジャンへの道」執筆が始まって初めて、西条氏から電話がありました。「言ったはずですよ、何を書いてもかまわないけれど…デブ、ハゲ、馬鹿と書いたら殺すと」。そう言って、か弱いおやまを脅かします。デブなんて書いてないもんね。"巨漢ぞろい"とか『デブの法則、豚の方程式』と書いただけだもんね~だ。や~い、肥満体、脂肪肝。
やだ…かっこいい…
ここまでぶち切れるほどぶつかり合ったからこそ、あの爆弾のような作品が出来たのだと考えると納得がいきます。
作者の西条真二は現在週間少年チャンピオン誌上で恐怖新聞のリメイク『キガタガキタ!』を執筆中です。
『鉄鍋のジャン!』と言えば、作中に出てくる辛くないラー油を実際に作ってみた人もいるようです。
凄く…美味しそうです…