「アメリカの有名シェフも読んでいる」『美味しんぼ』海外のレビュー

1983年に連載を開始し、日本中にグルメブームを起こすきっかけともなった原作:雁屋哲(wikipedia)、作画:花咲アキラ(wikipedia)による大ヒット作『美味しんぼ』(wikipedia)。
約一年の休載を経て、今も連載中です。
今となっては作中に出てくるデータの信憑性や原作者の思想、言動の方が注目されるようになってしまっているものの、全盛期の影響力には計り知れないものがありました。
この『美味しんぼ』、海外ではVizMediaからテーマ毎に話をまとめた単行本として販売されています。
ちなみに英訳版『美味しんぼ』はアメリカで優れた漫画に贈られるアイズナー賞の2010年インターナショナル-アジア部門にノミネートされました。
※受賞したのは辰巳ヨシヒロ『劇画漂流』の英語版である"A Drifting Life"でした。
引用元:2010eisneroishinbo

この惑星に生きとし生けるもの全てに共通するもの、それは生きるために食べる、という事。
そして、我々は食べる事を生きるための手段としてだけではなく人類の最も大きな喜びの1つにも変えてきてるのだ。
最高の食事を楽しみたい/楽しんでいる人々はたくさんいるので、この『美味しんぼ』は誰にとっても読みやすい漫画であるといえる。
Vizはそれぞれテーマの共通する話、あるいは章をまとめて7巻の単行本として発行している。
そこには少々退屈な食に関する教育的な話が盛り込まれているものの、少しのドラマも混ぜられている。
新聞記者である山岡は東西新聞で【究極のメニュー】を作ろうと考えるが、これは彼の父で、芸術家であり有名な美食家でもある海原雄山に目を付けられる事となり、帝都新聞の【至高のメニュー】との終わりなき戦いを迎える事となる。
この闘い、あるいは公式の闘い以外の小競り合いは、このドラマにいける唯一のテーマというわけではない。
同じくらい多くの話が仕事仲間や脇役達の食べ物にまつわる物語や恋の三角関係にフォーカスを当てているのだ。
『美味しんぼ』の読みやすさはVizによるプレゼンテーションでわずかに邪魔されているだけだ。
この漫画は日本で何十年にもわたって連載されており、100巻以上の単行本が出ている。
この様な長大なボリュームを米国で出版するのは多大なリスクを伴うので、Vizは他の良い作品の例に倣って長いストーリ上でいくつか似たテーマを扱うタイトル、章をまとめることに決めたのだ。
このVizの戦略は食べ物に関する側面は良くまとめられているものの、人間関係のドラマに関しては混乱を招く事になってしまった。
ある章では山岡はアシスタントの栗田と結婚しているのだが、別の章では彼らはまだデートすらしていなかったり、栗田と別の女性との恋の鞘当があったりするのだ。
これは最初に登場人物紹介を読んでおけば理解するのはさほど難しく無いものの、長いこと漫画を読んだ事の無い人にとっては混乱させるかもしれない。
(そもそも誰が登場人物紹介など読むのだ?否、誰もいない!)
もっともVizにとっては幸運な事に、彼らのよく章選択をしており英語版では過去の話はカットされている。
それに『美味しんぼ』の1巻以降については、人間ドラマもピックアップされている。

しかし、今は紛らわしい話の繋げ方は無視して食べ物に焦点をあわせることにしよう。
『美味しんぼ』における料理の取り上げ方はどれも素晴らしい。
物語を進めるためにいつも小さなバックストーリー(あるいは大きなドラマ)が用意されている。
これは山岡の戦い(至高VS究極)において材料の品質に集中していたり、読者に調理のテクニックを示していたり、食事を行うための重要な要素を挙げていたりしているのだ。
みんな食事がテーブルに並ぶまで口に水を含んでおこう。
あなたが単行本で紹介されている料理が好きでないのなら、それは役に立つかもしれない。
私個人としては魚は好きではないものの、伝統的な和食(もしくは懐石料理)でのいくつかの魚料理の章で紹介されていた塩味の魚料理や、登場人物達の食べていた料理を食べたくなってきたものだ。
私が魚料理が好きか否かに関係なく。
これは登場人物が食べているものを冷静に評価したり、客観的に分析しているからではなく、エキサイティングしているのを見て影響されたのだと思う。
(分析するだけの漫画など)誰が読みたがるだろうか?
グルメである事の喜びは、調理したり食べることへの情熱から成り立っていて、『美味しんぼ』は度々それを示してくれているのだ。
また反面、彼らがある種の食べ物を好きではないかもしれない、という事を事実を無視する事も出来ない。
いくつかの章ではある食べ物が大人も子供も嫌っていると描かれていた。
『美味しんぼ』は食べる事を好きになるという内容のものもあり、主人公はその食べ物が嫌いな人に美味しい料理を出し、いとも容易く好きにさせてしまうのだ。
好き嫌いが変わりにくく、且つ頑固な偏食家である私にとってこの方法は非常に有効なように思える。
私が味覚を信頼する誰かが、魚やキノコを好きになるように最善を尽くして料理してくれるなら、私は好きじゃないこれらの料理を食べてみるでしょう。
少なくとも、何かを食べさせようとする他のどんな方法よりも効果的だ。
『美味しんぼ』は7巻出ているが、読む順番がきまっているわけではないので私は「Joy of Rice」から読み始めることをお勧めする。
この巻は重要な脇役である京極が登場し、山岡と栗田の関係の始まりが載っているので読みはじめとして丁度いいのだ。
最初の話である「Joy of Rice」には山岡と彼のライバルである海原の戦いはないものの、巻の最後の2話でそれを見ることが出来る。
間に挟まれた同僚や友人、新しくできた知人に関する話は、山岡と海原の戦いほどドラマチックでない。
しかし私個人としては大きな闘いよりもそういった友人たちとの話の方が好みだ。
私は「ベジタブル」、「ラーメンと餃子」それにお勧めな点を探すのが難しかった「和食」の巻が特に気に入っている。
まだ持っていない巻が3冊あるが、それら「居酒屋料理」、「酒」、「魚:寿司と刺身」が良い状態且つ12ドル+税金で買えるのなら、買うことをためらいはしないだろう。
私の紹介文やアイズナー賞ノミネートだけでは満足できない?
有名なシェフ(サンフランシスコにあるイタリアンレストランincuntoのシェフ。アメリカ版料理の鉄人にも出演)やグルメ雑誌ですら『美味しんぼ』を取り上げているのだ。
これ以上何を待つというのか?
この漫画をチョイスし、Vizにもっと多くの巻が必要だと知らせようではないか。
(話の)全てに美味しさへの愛があるのだから。
原作者:雁屋哲の思想や『マスターキートン』への許し難い所業はひとまずおいて『美味しんぼ』の話をするならば、やはり日本の料理漫画を大きく変えた一冊であるといえるのではないでしょうか。
データの信憑性や作者の偏った思想により偏向的な内容はあるものの、食の魅力を伝えてきたからここまで人気が出た、という一面も認めざるを得ないところであります。
個人的にはこだわりの素材や珍しい食材よりもB級グルメの話が好きだったりします。
漫画は今や世界中で作られていますが、料理漫画というのはそれほど(全く?)作られていないようです。
以前『鉄鍋のジャン』を紹介しましたが、フランスで『神の雫』が大人気となったように料理漫画というジャンルは世界中で人気がでる可能性を秘めているかもしれませんね。
管理人雑記:
雁屋哲の思想自体は非常にアレではあるものの、その思想が表現へと向かっていた『男組』(amzn)
(風の戦士ダンも)
ちなみに『野望の王国』の作画担当だった由起賢二は現在、由起二賢とペンネームを変えて今も漫画家として活動しています。
(現在は別冊漫画ゴラク誌上にて『野望の王国』のセルフパロディである『野望の憂国』を連載中)