「ノックをするべきだったかな?」漫画『コブラ』海外のレビュー

かつて銀河に名を馳せた宇宙海賊「コブラ」。
しかし度重なる闘いに疲れ果てたコブラは記憶を消し名前と顔を変え、今は静かな日常を送っていた。
だが、冒険を求めて止まない彼の血は平穏な暮らしを我慢できるはずもなかった―――
寺沢武一(wikipedia)の贈る傑作SF漫画『コブラ』。
アメコミを思わせる重厚な作画に奇抜なストーリーと世界、何より主人公コブラの魅力は連載開始から30年以上たった今も色褪せていません。
寺沢武一公式サイト:buichi.com
Wikipedia:コブラ
引用元:animenewsnetwork.com/house-of-1000-manga

「人々は俺の事を毒蛇と思っている。馬鹿な銀河警察共は俺の事を犯罪者と呼ぶ。女性、特にゴージャスな女達はただ宇宙海賊コブラと呼ぶ。」
寺沢武一、彼は桂正和のように尻の描写で有名な漫画家だ。
彼の描画する異星人やアンドロイドはそれが善であっても悪であっても常にG-ストリングス(Tバック)を着用しているところを見るに、彼の漫画では常に椅子は温まっており、つめたい風が吹くことは無いのだろう。
しかしもちろん、尻の絵だけを描いているのならそれはピンナップイラストレーターで漫画家とは呼ばれないだろう。
寺沢武一("ザ・ブーチ"とも呼ばれる)は一流のスタイルをもった漫画家だ。
彼は手塚治虫のアシスタントとして始まり、手塚はいつもベレー帽を被っていたが、寺沢はいつも真っ黒な服とサングラスをかけていることで知られている。
また、寺沢は彼の全作品、あるいは限られたいくつかの作品で知られてもいる。
彼の全作品、『ゴクウ』(amzn)
1)女性たちは皆最小限の衣装しか見につけていない
2)主人公は無頼で、くせ毛で男前
ジョセフ・キャンベルが「英雄は千の顔を持つ」(amzn)
(その証拠を求めるのなら”Buichi Terasawa”でGoogleイメージ検索してほしい)
英語版では『コブラ・ザ・サイコガン』、『スペースアドベンチャー・コブラ』と付けられているこの漫画は、最初少年ジャンプで1977年~1984年の間連載された。
14歳の少女のような少年が主人公の今と違い、その頃の少年漫画は28歳くらいの太い眉をした男が主人公の漫画が売れていた。
(『シティーハンター』の冴羽りょうや『北斗の拳』のケンシロウ等々…)
「西洋的」で「ハードボイルド」なスタイルは当時大きく流行っており、手塚の元にいた寺沢もまた西洋のコミック、映画、アートから多大な影響を受けていたのだ。
彼のコマ割りはどちらかというとシンプルで日本のものよりも西洋のそれに近い。
彼はインタビューでジェームス・ボンドとダーティー・ハリーについて語ってたが、彼の作品はアメリカではそれほど人気とはならなかった。
(おそらくアメリカには既に”アメリカ的”な漫画があったからだろう)
しかし、フランスではとても人気で、これはかの国があのSFコミック、映画の『バーバレラ』(wikipedia)を作ったジャン=クロード・フォレストを生んだ国だと考えると驚くような事ではないだろう。
そしてこの映画は寺沢の大のお気に入り映画でもあるのだ。
そしてフランスは『ヘビーメタル』としてアメリカに輸入されたSFコミックマガジン『Metal Hurlant(メタル・ユルラン)』(wikipedia)を生んだ国でもあるのだ。
さて、それでは80年代へと戻ってみよう。
『コブラ』は13年後に公開された映画『トータル・リコール』(amzn)
(おそらく寺沢は1966年に出版されたフィリップ・K・ディックの『追憶売ります』(amzn)
ジョンソンは毎朝メイドロボに起こされ、退屈な仕事に行く事にうんざりしている怠け者のサラリーマンだ。
日々の生活に疲れた彼は、偽りの冒険の記憶を客に売る「Dream Merchants(訳注:原作ではT・M株式会社)」へと出かける。
(ハーレムで美女を侍らせ、スーパーマンですら倒せないような怪獣と闘う宇宙船の指揮官にだってなれるのだ!!)
素晴らしい宇宙海賊であるという夢から覚めた彼はいつもの生活に戻るが、その夢によって彼は自分が宇宙海賊だった事を思い出していく。
混乱したジョンソンは偶然自分が本当に宇宙海賊だった事を知り、同時に宇宙海賊ギルドによって指名手配中であることも知ってしまうのだった。
そして彼の記憶は突然甦っていくことになる。
ジョンソンは本当は悪名高い宇宙海賊コブラで、安全で普通の生活を得るために記憶を消し、整形手術をしていたのだ。
(どうやら、その手術は主に彼の鼻に対して行われたらしい)

コブラは天才的な反射神経を持ち、信じられないくらい強靭だ。
(”ミュータントやエイリアン”的ではなく”人間”として)
そして彼の片腕は義手でその下にはあらゆるものを貫く強力なサイバネティクス兵器、サイコガンを持っているのだ!
(ああ、変形する武器を持った少年漫画の主人公達よ!)
彼の相棒はレディ(別名”アーマロイド・レディ”)で、仮面を付けてはいるものの明らかに女性と分かる忍者タイプのロボットだ。
空山基(公式サイト)の描くセクサロイドを思わせるかもしれない。
彼の乗る宇宙船は”タートル号”で、ミレニアムファルコン号のようにクラシカルな宇宙船だ。
それから彼の最も忠実な相棒はいつも、例えそれが水面下であっても燻らせている葉巻だ。
(今の少年漫画でもこういうものは見たいと思う。Viz版の『ヒカルの碁』では不良の咥える煙草ですらチューインガムに変えられたのだ)
神の与えた幸運か、コブラは冒険をしていない時でもハン・ソロの憎まれ口、ジェームス・ボンドの向こう見ずさを兼ね備え、相手を怒らせることにかけては芸術的とも言える皮肉の持ち主なのだ!
(「助け…?悪いが今は休暇中でね、君の背中のジッパーを下ろす手伝いならするが」)
彼は異星人のいるバーに立ち寄ってミルクを注文しケンカをふっかけ、アマゾネスサイボーグの看守が不運な囚人(もちろんコブラ以外の)を痛めつけている刑務所に収監される。
コブラは彼の主要な敵、金属の骨格を透明なボディで包んだ宇宙海賊サイボーグ、クリスタルボーイとも戦う。
コブラは宇宙海賊ネルソンの失われた宝を捜し求めもする。
宝のありかを描いた地図はネルソンの残したホットな3人の娘の背中に刺青されているのだ。
『コブラ』は短い物語で構成されているが、いわゆるキャラクター物の少年漫画のように始まりと終わりがあるわけではない。
少年ジャンプでの連載が終わったあと寺沢はこの作品を取り戻し、それ以来十数年に一度といった割合で幾度もコブラを送り出している。
コブラはどんな時も奇妙な宇宙世界、奇妙なテクノロジーと宇宙船、そしてエイリアンや女性といったおよそあらゆるものから逃げている。
コブラ自身はこの漫画で唯一魅力的な男性だ。
他の者はみな、ロボットか犬頭やトカゲ頭のエイリアン、あるいは美女のどれかだ。
寺沢の描く女性はみなほとんど同じ体格ではあるものの、少なくとも現実的であり、ロリ体型やグロテスクな爆乳といったものは無い。
寺沢は良い、あるいは硬いアーティストであるともいえる。
コブラは四本の腕に刀を持った女性、蛇女、金魚鉢を胸つけた女性などに出会う。
ある者は味方である者は敵対する。
賞金稼ぎのジェーン・ロイヤル等、味方となる女性はボンド・ガールのように殺される傾向にあるが、付き合いの続く仲間もいる。
彼の酷い口説き文句と、彼の周りではいつも女性が死んでいるという事実(これは彼のせいではない!)にも関わらず、彼が紳士であるという結論は覆し難いだろう。
むしろ…クールですらあるが、彼は明らかに変でもある。
彼に最も近いと思える漫画は奇妙な事に、長い顎とフワフワの金髪ロングヘアーを持った、ボーイズラブの始祖ともいえる『エロイカより愛をこめて』(amzn)
この発想は見た目ほど奇妙ではない。
両方ともヘアボリュームが豊かだった70年代の作品であり、寺沢は『コブラ』を描く前は少女漫画を描いてもいたからだ。
寺沢は1996年に出版された雑誌『Animerica』でのインタビューで少女漫画を描いていた過去を明らかにしている。
この雑誌は絶版後に『Anime Interviews』(amzn)
Animerica(Takayuki Karahashi):あなたが初めて描いた漫画に関してもう少し話してもらえますか?
寺沢:私は一年ほど作品を描き続けていましたがそれはおそらく20から30あったはずです。その全てが少女漫画でした…全部SFではありましたが。
Animerica:少女漫画とSF漫画、あたり一面バラの花を?
寺沢:もちろん、いたるところにバラを描きました。資料としてバラの写真集を買ったくらいです(笑)
それは少女漫画でしたが、同時に私の作品でもありました。つまり、出てくる女性にG-ストリングを履かせたのです。

確かに顔を整形する以前のコブラは、その大きな鼻に目を瞑れば美少年に見える。
言い換えるならば『コブラ』は西洋のアクションヒーローやスターウォーズのパロディなだけではなく、70年代のSF少女漫画のパロディでもあるのだ。
記憶を失う前のコブラはシリアスで色っぽく、美しい宇宙海賊だった。
そして漫画の舞台となっている今では彼は三枚目で、それは少年漫画成功の法則に則ってもいる。
(『GTO』の鬼塚や『シティーハンター』の冴羽、『バスタード!!』のダークシュナイダー等々…)
主人公というのは英雄であると同時に子供っぽさも持っているものなのだ。
Vizが『コブラ』を出版したのは1990年。Viz版の『コブラ』は結局12冊まで出版され―物語としてもきちんとまとまっていたが―上手く行ったとは言えず、グラフィックノベルに分類されてすらいなかった。
(もう一度思い出してほしいがフランスでは大ヒットしていた。寺沢はAnimericaのインタビューでこう言っている「フランス人はお尻が大きい(訳注:のが好み、という意味か?)。私の参考にしている資料のフランス人はみんなお尻が大きいからね。」)
しかし、『コブラ』を読もうと思っている人々は幸運だろう。
このシリーズは最近携帯電向け漫画出版社NTTSolmare(NTTソルマーレ)によってiPhone用漫画としてiTuneストアにリリースされたからだ。
(訳注:NTTソルマーレは海外への配信も行っている)
しかし、絶版となったViz版は少年ジャンプ連載分も含まれていたが、NTTソルマーレ版は後に寺沢が描いた独立したストーリーとなっている。
コブラ以降の寺沢の漫画は、彼がカラーグラフィックに傾注したこともあり次第に漫画のメインストリームからは外れる事になっていく。
この芸術性のシフトにより彼の漫画はより西洋的なものとなり、今ではモノクロ版よりもカラー版の方が多く出版されている。
寺沢は早くからコンピュータグラフィックとインタラクティブな漫画に注目しており、英語版『タケル:Letter of the Law』をCD-ROMで販売したりしている。
今日における彼の作品はiPhoneで見ることが出来、これはコマをバラバラにして分けられ、自然に見えよるように工夫されている。
更にキャラクターは色づけされ、背景は3Dレンダリングされたものが使われており、色の付けられたコブラはかなり良いものとなっている。
フォトショップされすぎだし1990年代的ではあるものの、地球外のバーや虹と光で飾られたカジノへと我々を誘ってくれる。
残念ながらマーブルコミックの脚本家、Marv Wolfman(『ブレード:ヴァンパイアハンター』の作者)が翻訳したViz版とは違い、NTTソルマーレ版の翻訳は酷いものではあるが。
これはオフィシャルなiTunesストアのフリーアプリに収められている『コブラ』ダイジェスト版のサンプルページだ。


”コブラは左腕にサイコガン、相棒にレディという名の女性型アーマロイドを持った宇宙海賊だ。これは非常に人気のあるアメコミ風のSFハードボイルドアクションだ。特に売りなのはセクシーに描かれた女性と奇妙なSF世界だ。”
NTTソルマーレには他の問題もあり、特に苛つかせ混乱させられるのはその購入インターフェースだ。
このアプリは作品を含めた値段が2.99ドルで、このアプリの解説にはこのアプリで他の漫画も読めると書かれているものの、実際のところ他の漫画を読むためにもっとお金を払う必要があるのか無いのか良く分からなかったのだ。
フルアプリの値段ににダイジェスト版が含まれているとも思えないし、試す時は自己判断で。
しかし、良いストーリだってある。
一番は『マンドラド』で、これはコブラがエリザベス・タッカーという高級車で宇宙を渡る金持ち女から脅迫されるいかれた物語だ。
彼女の左目は人々を捕らえる力を持っており、彼女の目に囚われた女性の友人を救うためにコブラはエリザベスがマンドラドを探す手伝いをする事になる。
その花は人間の顔のような形をしており、その歯はダイアモンドで出来ているのだ。
コブラは「目」、「鼻」、「耳」という特殊能力を持った3人のエイリアンとチームを組む事になる。
空を飛ぶジェットピラニアや人食い蟲など気味の悪いものが蠢く暗い湿地帯惑星に、伝説の花を求めて彼らは降り立っていく。
『マンドラド』アプリと一緒に入っている『黄金とダイヤ』ではコブラは気がつくとSF的ウェスタン世界でロボ駅馬車を強奪した咎で女性保安官に捕らえられていた。
(もちろん、彼女の制服はお尻がむき出しだ)
『On the Battlefield』ではコブラは戦場で引き裂かれた惑星に足止めを食い、生き延びるために傭兵たちと手を組まざるを得なくなる。
(もちろん、ホットな女性も一人いる!)
死の砂漠を超えることは出来るだろうか?あるいは彼らの中に裏切り者がいるかもしれない。
最初のアプリで一番面白いのは『Thunderbolt Star(原題:黄金の男)』だ。
これはシンプルなストーリーで、コブラは宇宙カジノで知り合ったバニーガールを助けるためにミサイルの腕を持った海賊のリーダー”ハンマーボルト・ジョー”と巨大ルーレットマシーンの上で闘う。
これはもっともコブラらしい話だ。
物語は驚くほど1960年代のバットマン的で、今では風変わりで時代遅れでちょっと女性差別的であるにも拘らず、不快には思えない。
『コブラ』は名作なのかって?
さて、どう説明したものだろうか。これは漫画の歴史において重要な一作だ。
『Japan Inc.(原題:マンガ日本経済入門)』と比べたら楽しく読める。
(訳注:筆者は『コブラ』の前に『Japan Inc.』を取り上げた)
Tバックを履いた西洋的な女性が出てくる奇妙な漫画が好きな人達…おかしなエイリアンや命がけの脱出、葉巻を吸うヒーローが好きな人達…あるいは13歳の頃『バーバレラ』に出会い、そのハートにいつも1968年を持った漫画家の心の中を見たがっている人達…『コブラ』はそういった人達の物だ。
あなたの両目か頭から色彩が噴き出してくる覚悟をしておいて欲しい。
あるいはお尻からかも。
コブラを知っていたら一度は腕にポテトチップの缶を嵌めてサイコガンのまねをした事があるはず。
それにしても昔の少年誌は今とは違った意味で何でもありでしたね。
SF小説のネタがそこかしこに散りばめられた大らかな時代でもありました。
管理人にとって『コブラ』、『銀河鉄道999』、『StarWars』の影響はかなり大きく、今でもSFというと辺境の惑星で様々なエイリアンがたむろする居酒屋が思い浮かびます。
居酒屋や街の描写を見るだけで何かが起こりそうだとワクワクさせてくれるのは、寺沢武一の画力のなせる業でしょうか。
『コブラ』と言えばまず語られるのは主人公コブラのキャラクターが多いと思いますが、こういった何でもありな世界もまたこの作品の魅力だと思います。
『コブラ』はハリウッドでホラー映画『ミラーズ』(amzn)
これからの展開に期待です。
(『ミラーズ』では主人公の息子(小学生低学年くらい)の部屋になんの脈絡もなく『つばさクロニクル』のポスターが貼ってあり、日本の観客の一部を困惑させたものですが、あれは監督の趣味だったのか…)
おまけ:







