「力強い物語が魅力」漫画『パイナップルARMY』海外のレビュー

パイナップルARMY仏

1985年から1988年までビックコミック・オリジナルで連載された工藤かずや(wikipedia)原作、浦沢直樹(wikipedia)作画による漫画『パイナップルアーミー』(wikipedia)。
ベトナムをはじめ世界各地の戦場を渡り歩いた後、民間の軍事顧問機関CMAの戦闘インストラクターをしている主人公、ジェド・豪士の活躍を描いたのこの漫画は多くのファンを獲得し、浦沢直樹の名を一躍世に知らしめました。

この『パイナップルARMY』は海外でも販売されています。

引用元:manga-artifacts-pineapple-army


■このコラムを始めるにあたって、私が最も満足した一作を選ぶ事にしよう。
『パイナップルARMY』(VIZ)は工藤かずや原作、浦沢直樹作画による作品だ。
『パイナップルARMY』を読むと、まるで1980年代中ごろのタイムカプセルを開けたような気分になる。
冷戦下で、アメリカの都市は犯罪に支配され、中米は中東と同じくらい重要な作戦戦域だった頃だ。
『パイナップルARMY』の怠惰な主人公ジェド・豪士は元海兵隊員で2度のベトナム兵役から一般市民の生活への復帰を果たせずにいる男だ。
現在の豪士は管轄機関に頼る事が出来ない、あるいは頼りたくない人々を助けるための秘密の政府機関で働いている。
豪士自身は自分はボディガードではなくインストラクターだ、とかたくなに主張しているが――「俺は短期間のうちに一般人を戦場の軍人へと作り変える」彼はとあるクライアントにこう説明する――彼はいつも荒事に巻き込まれる、重大な失敗を犯した未経験な戦士を救ったり、厳しい状況下のクライアントをコーチしたりといったような。

『パイナップルARMY』は明らかにレーガン時代の政治とパラノイアにどっぷりと浸かっている。
例えば作中の”セルバ・ゲーム”では、豪士はサンディニスタ民族解放戦線(wikipedia)と衝突する。
その外交的大失策を覚えているだろうか?
これはホンジュラスとニカラグアの国境沿いでのミッションだ。
”過去からの男”では彼のザイールでの過去が描かれる。
彼は米国の協力する反共ゲリラに戦闘を教えるのだ。
他の話ではニューヨークを悪徳警官、ギャングスタに自警団といったような一種のジャングルとして描き出す。
『BANANA FISH』を読んだ人なら誰でもその関連性を認めることだろう。
これらの物語はどれも”かつて起きた事件”から着想を得ている。
今まで起きた事件から要素を借りてフィクションとして作り上げているのだ。
”偽りの英雄”を例に挙げると、女刑事が追っているのはカーティス・スリワ(wikipedia)風の自警団だ。
”インストラクター豪士”では悪徳警官の家族と、彼が金づるにしていた悪党との間に決着をつける。

浦沢直樹の作画は大友克弘に大きく影響を受けている。
登場人物たちはみな栄養充分―がっしりとしていて、四角い顔で、筋肉質。
大友は『AKIRA』や『童夢』などで1980年代に人気を博していた。

悪党の何人かの顔つきは後の浦沢のヒット作『MASTERキートン』や『モンスター』を予兆させはする。
もっとも、『パイナップルAMRY』に関しては有能な作家といえども、経験が足りなかったと考えるのが合理的だろうか。
それでも、浦沢のトレードマークともいえる細部に到るまでの描写はこのシリーズの最初から最後まではっきりと現れている。
彼は各エピソードのための設定を几帳面に組み立てている。
舞台となったホンジュラスのマヤ遺跡、ニューヨークの薄汚いIRT(地下鉄)のプラットフォームや街明かり、1980年から1990年にかけて7thアベニューに実際にあった教会兼ナイトクラブ。

オリジナルは小学館のビックコミックオリジナルに1986~1988の間連載され、日本では何種類も単行本が出ていて、どれもが総ボリューム1000ページほどの内容だ。
アメリカではVIZが10エピソードほど選び出し、最初は32ページの薄型のコミックブックとして、その後一冊の大判ペーパーバックとして出版した。
一話完結型の冒険物には合理的ではあるものの、『パイナップルARMY』には『美味しんぼ』と同じように連続したエピソードに関する問題を抱えていて、西洋の読者のためにエピソードは切り詰められて再編集されている。
2つの物語を例に挙げよう。
豪士とデートをしている間、なんとか彼と会話しよう試みているジャネットというエージェントがいる。
このカップルには明らかにその職業に関する二人の歴史があるのは明らかなのだが、彼女がどうやって豪士と知り合ったのか、我々には知る由もない。
また、アフリカでの殺人を暴き立てるためにアメリカまで豪士を追ってきたガムシャラな記者もそうだ。
彼は『レ・ミゼラブル』のジャヴェール警部をメロドラマ風にしたような人物なのだが、VIZは彼に名前すら与えていない。
(本当の話、豪士とジャネットは彼を”記者さん”と呼んでいるのだ)
もっとも、このような些細な問題は苛立たしくはあるものの、致命的ではない。
活気あるストーリー展開と人間関係はそのような中断を超えて読者に届くくらい力強いからだ。

VIZは『パイナップルARMY』の全編を再発刊するのだろうか?
私としてはNoと言いたい。
作画が大多数の漫画ファンにとって古めかしく感じるからだ。
浦沢の作画とスクリーントーンワークはしばしば現在の主流からは粗雑に見えるし、彼の残念な傾向ともいえる厚く、黒光りする唇をもった黒人キャラはアメリカで出版するためには変更を必要とするかもしれない。
(浦沢を擁護するために言うと、彼の描くキャラは手塚治虫の『地球を呑む』や石森章太郎の『サイボーグ009』ほど大げさに描かれているわけではない。
それでも人種問題で不快な歴史を持つアメリカの読者にとって、この描写を許容するのは難しいだろう)

そしてまた、このストーリーは1980年代のテレビ番組と同じリズム、感覚がある。
『パイナップルARMY』と名作ドラマ『ザ・イコライザー』を比較するのは容易い事だし、『パイナップルARMY』には疑いが付きまとう事になるだろう。
しかし、力強い脚本とダイナミックなレイアウトの前には『パイナップルARMY』の欠点など簡単に見逃す事になるだろう。
工藤と浦沢はタフで忘れがたい女性達を作り上げているし、時事と物語を統合させる独創的な手法を発明してもいる。
更に様々な舞台でのアクション、カーチェイスや銃撃戦、樹脂で固めた爆弾などは『特攻野郎Aチーム』や『冒険野郎マクガイバー』のようでもある。
物語自体は税金と同じくらい予想できるかもしれないが、それでも楽しめる。
特に私にとっては”Frankie says relax!”と書かれたTシャツやサブウェイ・ガンマン、バーンハード・ゲイツといったビビッドな思い出を呼び起こさせてくれるのだ。
(訳注:バーンハード・ゲイツ:1984年、ニューヨークの地下鉄でバーンハード・ゲイツという白人が4人の黒人を射殺した事件)


浦沢直樹の漫画で一番好きなのは?と聞かれたらこの漫画を挙げます。
『MASTERキートン』の方が作品として完成度が高いだろうとは思うのですが、やはりこちらを先に知ってしまった以上『パイナップルARMY』の方が印象に残っているのです。
20年以上前の漫画なので、流石に世界情勢などは現代とそぐわない点が多くなっていますがジェド・豪士をはじめとする魅力的なキャラたちは今でも色褪せることがありません。
読んだことのない人には是非ともお勧めしたい一品です。

ちなみに『パイナップルARMY』は英語版以外にフランス語とスペイン語版が出ており、記事トップのイメージはフランス語版の表紙です。
他の言語の表紙は以下の通り。

スペイン語版
パイナップルARMY西

英語版
パイナップルARMY米

…英語版はちょっと懲りすぎな気が。
子供向け漫画ではなくポリティカルフィクションとして売り出したかったんだろうという気概は伝わってきますが。

管理人雑記:
引用元の記事で、豪士を付け回す記者の名前がないと嘆いていますが、原作でも出てこないんですよね…



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浦沢直樹の漫画で一番好きなのは?
以前この話題で語り合ったことあるけど、みんなが色んな漫画を挙げてたけど、結局YAWARAを挙げたのは自分だけだった。
自分以外みんな非オタだったのに。

というか「パイナップルARMY」と「MASTERキートン」は原作者の色の方が強いんじゃない?

マスターキートンは原作者が何もしなかったって事で問題になってるよ

著作権料の関係かなんか知らんが、そのトラブルのおかげでマスターキートン増刷できないらしい

懐かしい
これ好きだったわ

あらパイナップルARMYなつかしい
面白かったよこれ

正直、浦沢直樹は他の人に原作を書いてもらっている作品の方がおもしろい
マスターキートンはおもしろかった

なんだか小学生くらいんときに読んだような・・・。


狂った微笑みデブみたいな奴を手榴弾で倒す話と
満足にレクチャー出来なかった新兵を送り出して
犬死にさせた話が印象に残ってる

本棚にキートンとプルートゥと一緒に並べてあります。

マスターキートンは小学生の頃に祖父の家で読んでたのを覚えてて、
大人になってから大人買いしたわ。あれは面白い。

俺もキートンが一番かなぁ
モンスター以降の作品は読んでないけど

浦沢先生の漫画はへぇ~ってなる時ある。ピンチを乗り越える方法とか

有能な漫画家さんなんだろうけど、画が
生理的に受け付けないんだよなぁ・・・。
目つきに違和感があって、それが気になって
しょうがない。個人的には。

キートンは中途半端なリアリティが鼻につく感じで違和感あったな
パイナッポーはちゃんと創作物としての出来がよくて楽しめた

本屋でなぜかこのマンガが目に留まって
買って読んだら無性に面白かったのがマンガの始まりだったな
しかも一番面白かったのが最初の四人姉妹の話だったという超偶然だった
あれ以来、これ以上に面白いマンガというのは数えるほどしか巡り会っていない

>画が生理的に受け付けないんだよなぁ・・・。

そ、そう?
自分は一番”目に心地いい”画風がこの漫画家の絵かもしれないんだけどw

パイナップルARMYもいいけど、MASTERキートンのほうが個人的には好きかな?
あと、浦沢直樹は、原作がつくといいという意見があるけど、それは同意。
20世紀少年とか酷すぎるぞ…。特に、オチ。

原作なしの浦澤漫画は竜頭蛇尾という印象がある

>原作なしの浦澤漫画は竜頭蛇尾

同感。壮大に見せて収拾しきれてないというか。
その意味ではパイナップルARMYは短めにまとまってるね。
YAWARAも最後はちゃんとまとめたかな。今見ると、珍しくというべきかw

>画が生理的に受け付けないんだよなぁ・・・。

高野文子も同じ事言ってたよ。

最後に犬が爆弾くわえて死ぬ話が好きだったな
あれは切ない

親がビッグコミックオリジナル購読してたから小さい頃リアルタイムで読んでて
高校のときに単行本そろえた
このマンガで世界の敵みたいな印象をうけてカダフィを覚えたんだけど
そのカダフィがいまだに政権持ってるってのはすごいわ

>releasing them first as 32-page floppies,

>最初は32ページフロッピーディスクして、

アメコミによくある薄い本を "floppy comic book" と呼ぶんじゃないかと思います。
確認できませんが。

>アメコミによくある薄い本を "floppy comic book" と呼ぶんじゃないかと思います。
>確認できませんが。

どうやらそのようです。修正しておきました。
ご指摘ありがとうございます。

微声手槍とかこのマンガで覚えた武器も結構ある。

>黒光りする唇をもった黒人キャラはアメリカで出版するためには変更を
>必要とするかもしれない。

唇の薄い黒人のサンプルを集めた写真集とか資料集とかが欲しいね。
描いている側に差別心なんか無いのは分かるので、某差別をなくす会
みたいなクレーマーはウザいと思う一方、ステレオタイプが嫌がられると
いうのは、やれ細目だ釣り目だとさんざ偏ったステレオタイプで描写
されがちな日本人としては分からなくもないし。

その他、萌え黒人美少女の写真集とかもあれば尚良し。

なるほど。黒人を黒人っぽく描くと差別なのか。
どっかの国の人間と同じだな。
21世紀の今、差別は立派な産業に成長したと言うべきだろう。
後50年もしたら世界的なヘイトクライムの渦が巻き起こりそうだな。

この漫画のお陰で“ハインドD”または“ハインド”と聞くだけで
「あの地上最強のソ連製ヘリ!?」
と過剰反応するようになりますた。

輪ゴムと聞くだけで“鳥も撃ち落とす強力輪ゴム銃スーパー・シューティングガン”
と言ってしまうし
ラストオーダーと聞くと「私のおごりです」と言いそうになる。

スペツナズナイフとグルカナイフと粉塵爆発はこのマンガで覚えた

竜頭蛇尾とは言うがパイナップルarmyの終わりかたは至高だと思う
確か初めに繋がる奴だよな?

黒人の描写を変えないといけないのか。

黒くてギョロ目でタラコ唇、団子鼻、黒人はみんなこの傾向じゃん
自分らがキャンディキャンディみたいな容姿のつもりなのかね、あいつら

特徴を正直に描いて批判されるって、作家に対する逆差別だろ

もう黒人はモザイクにしたらいいよ、モザイクに矢印つけて、「ニグロイド」の「N」をぶら下げさせる

日本の多くの漫画が黒人を登場させないのはある意味正しい
存在自体が差別だからね 困ったことに

懐かしいなあ。

スペイン版は、シンプルでセンスいい(日本版コミックのまんまかな?でも着色が海外のコミックぽい)。

VIZの英語版は酷いな。
なんか、日本の漫画への先入観とか、ブランド意識が見え見え。

黒人の描写への記述があるけど、結構向こうの人って「いかにも外人」って描かれ方が嫌いみたい。

マンガの中の記号っていう感覚がわかんないのかな?

それにしては、結構風刺漫画で日本人を馬鹿にしてくれてるけど。

ビッグコミックの名作だね
当時おっさんばかりの読者層が一気に若返った立役者

『美味しんぼ』の原作者(名前も書きたくねぇ、ペッ)に圧力かけられて、事実上の絶版に追いやられている『MASTERキートン』を何カ国語にも翻訳して、日本に輸出させようぜ!!…おれが若い頃は、サヨクが日本は外圧に弱いから、自分たちの主張を認めさせる為には、テメェらの大嫌いなアメリカを主に、外圧をかけてもらおう、とか臆面もなくほざいている時代だったからな。

エチオピアは鼻はスッとしてて唇は薄い黒人が多い。美人が多い国として有名
ツチ族だって鼻が細く高いことから白人に近いとされベルギーに優遇された
黒人にだって色々居るんだから苦情が来ても何もおかしくはない

※34
怖いな。
事実誤認で真実を何もしらないまま、こんな事言えるんだ。
剣呑剣呑。

PCモニタの前でだけ、「ウヨク」「サヨク」という単語に振り回されてるお坊ちゃん達て怖いね
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