「アミルはカルルクを好きになってきたね」森薫『乙嫁語り』2巻、海外のレビュー

乙嫁語り2

森薫の描く中央アジアを舞台にした花婿と花嫁の物語『乙嫁語り』の英語版2巻が販売されました。
1巻と同様ハードカバーでの出版となっています。
アミルを故郷に連れ戻すためにやってきたアミルの親族とカルルクの氏族の間の諍いが入った2巻はどのような感想だったのでしょうか。


引用元:10954336-a-bride-s-story-vol-2


●マディソン、ワイオミング州、アメリカ
ちょっと登場人物には混乱するけど、それでも楽しい。
アートワークは相変わらずこの作品の最高の部分ね。

●マウント・バーノン、ワシントン州、アメリカ
戦いは無くても良かったかも。
自分の想像でのバイオレンスは楽しい物だけど、漫画(グラフィックノベル)でのバイオレンスは退屈なだけ。
でも物語は再び華やかで魅力的だった昔の時代の詳細な描写(刺繍のデザインとか)に戻ってくれた。

●ジャカルタ、インドネシア
ようやくこれを手に入れられて幸せ!
それと私はいつだって森薫先生の作画を楽しんでる。
アミルは遂に恋に落ちたんだね。
興味深い新キャラ、パリヤも登場した。

●オランダ
またもや凄くアメージングな作画!
あらゆるディテールを見て欲しい!
ストーリーも好き。
次の巻が本当に楽しみ。

●ユージーン、オレゴン州、アメリカ
最初の巻と同じく穏やかでシンプルなプロットだ。
驚くほど快適に読める。

●シカゴ、イリノイ州、アメリカ
森薫のディテールにこだわった作画、本物の歴史漫画を作るための入念なリサーチはアメージング、アメージング、アメージング。
私はこのシリーズが凄く好き。
日常風景を切り取った物語が続いていくのを見るのが待ちきれない。

●不明
星は3と1/2にしようか4にしようか迷っている。
作画はアメージング、この巻には刺繍がたくさん載っている。
2人の関係はより一層進んだけど、レーティングは相変わらず"Gレート(訳注:全年齢向け)"。
湯に浸かるアミルのノンセクシュアルなヌード以外は。
(今でもそれが必要だとは思えない。読者は彼女が大人だと知ってるんだから)
今回は文化や政治といった氏族に関しての話もより多く描かれている。
この巻では新しい”花嫁”も紹介されている。
もっとも彼女はまだ出番を待っている所だけど。
この巻の最後でMr.スミスは別の街へと発っていき、作者はしばらく彼の物語を折っていくというヒントを与えている。
おそらくアミルとカルルクからはしばらく離れる事になりそう。
それと彼は少し成長したみたい。
アミルは初々しい花嫁と母親の中間といった所ね。


●不明
詳細な作画は相変わらず素敵(服やキルト、穏やかに育まれ、近づいていくアミルとカルルクの活き活きとして愛らしい関係など)だけど、この巻には私にとって目に障り、残念な領域へと踏み込んでもいる。
13歳と20歳という年の差のアミルがカルルクに惹かれて行くのは私にととって支持しがたいし、彼女が彼に護られる事に心地よさを見いだしてるのは間違っているように見える。
彼は子供なんだから!
彼女が彼を護るべき!あるいは、少なくとも彼はもっと(彼女といる事で)安らぐようになるべきでは。
ステレオタイプな性別関係(か弱い女性と強い男性)がロマンスへの唯一の道であるという考え方は面白くない。
ラストの、外部からの観察者である西洋人人類学者によるあからさまなまとめも、私にとっては美化されていて不快だった。
でも、それがより正直な感想なのだ。
物語はその土地の民族の掟にこだわって描かれている。
しかし、この民族の物語はこれから倫理的でいられるのだろうか。
それとも掟は常にその力を行使する物語となるのだろうか。
私としては後者であって欲しくは無い。
確かにそういった掟を分類して観察し、理解する事は楽しくはあるが、それが正しいという保証はないのだから。

●ドイツ
私は森薫の織り成すこの作品のプロットと文化史を本当に尊敬している。
『エマ』よりも良いと思っているくらい。
しかし、もしこの漫画をプロットとロマンスのために読んでいるのだとしたら、これは森薫の作品としては最高のものではないかもしれない。

今回は北の強い部族にアミルを嫁がせようとする彼女の親族とのアクションが中心の物語に急転している。
(以前嫁がせた花嫁はその部族に泥のように扱われ、死亡している)
アミルと同年代の兄は、彼女を連れ戻す事に凄く不本意ではあるが、叔父は無慈悲であり定住民と遊牧民の間に争いが起こってしまう。
アミルは恐ろしい目にあるが、村人たちは勝利を収め、彼女の若い夫であるカルルクは最後の遊牧民が部屋に押し行って来た時、本当に活躍した。

その結果、アミルは彼の事を男として見るようになる(^^)
(偉大なる祖母が言うには、「嫁心ついたね。”gained the heart of a bride”」)
森による美しいヌードもあるが、子供な花婿とのあれではない。
単にアミルのバスタイムなだけ。

私たちは女性達の生活の全てと、氏族とは刺繍であるという事も学び、共同パン焼き竈へと訪問し、そこでまだ夫を見つけていない率直な村の娘と出会う。

カルルクの家に滞在していた人類学者スミスはたくさんの手紙を受け取り、彼は次の目的地へと移動する事を決意して、次巻への引きとなる。
(手紙はレディ・へスター・スタンホープからだと思う。この本では名前が無かったけど(^^))
(訳注:レディ・へスター・スタンホープは実在の人物で18世紀のイギリス人女性。貴族の家に生まれアラビアを愛し、ハーレムの詳細を初めてヨーロッパに紹介した人物:参考リンク
関連書籍:情熱的な巡礼者たち

カルルクとアミルは彼に道を譲り、森薫の声は彼の声となって人々の暮らしを謳いあげていく。
楽しいおまけによると、森薫は次は人類学者スミスを追いかけ、新しい花嫁を出したい、との事。

再び私たちがアミルとカルルクに出会う時、彼は西洋文化的に見ても充分夫として釣り合うだけの年になっているのではないだろうか。

●↑のレビューへのレスポンス
私の友達も凄く薦めてた!
彼女は作画が凄くビューティフルだと言ってた。
表紙をちょっと見ただけで、凄くディテールに富んでるって判った。

ところで、彼女の若い花婿は何歳なの?
彼ってchibiでキュート。

●↑レスポンスへのレスポンス
えっと、彼女は20歳で、舞台の時代と地方じゃ結婚するには年をとりすぎてるんだよね。
それと、すぐには思い出せないけど…彼は12歳、成長期の前なのは間違いないはず。

もしあなたがまだ森薫作品を読んでないなら、彼女の作画は信じられないくらい緻密!
彼女はビクトリア朝のイギリスをリサーチし、それを基に恋愛を中心にした物語『エマ』を描いたし、19世紀のシルクロードの部族についてもそうしたと信じてる。

●↑レビューへのレスポンス
あなたが強く勧めていたから今日読んでみた。
本当に良かった!気に入った。
これは『エマ』よりもいいと思う!


発売されたばかりという事もあり、コメントはまだ少なめでした。
※大抵続巻はコメントが減っていく傾向にあります
ただしレーティングは現時点で4.5と1巻よりも若干上です。

日本だと2巻はカルルクカッケー!って感想が多い気がするのですが、海外だとその辺はあっさり流されてる感じがします。
女性の読者が多いからかもしれません。
もっとも、たったこれだけの数を持って海外の感想と断ずる事はできませんが。
作画は相変わらず絶賛されています。
今回は刺繍の描写が受けていたようで、感想の端々に刺繍についてのコメントがありました。
確かにあの刺繍の描写はもはや正気の域とは思えないほどです。

さて、英語版の3巻は来年2012年3月27日発売予定で、こちらもハードカバーとなるようです。

コメントにもあるように巻末のおまけ漫画もしっかりと翻訳されて載っているようです。
※ちなみに1巻での巻末漫画はこんな感じ
乙嫁1おまけ1
乙嫁1おまけ2

追記:カルルクの名前を修正。ずっと間違えてたっぽい…ご指摘感謝です




A Bride's Story, Vol. 1
A Bride's Story, Vol. 1
A Bride's Story, Vol. 2
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乙嫁語り(3) (ビームコミックス)
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旅行人163号特集コーカサス~アゼルバイジャン+アルメニア+グルジア
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カルククじゃなくてカルルクね。細かい事だけど気になったので・・・

この人の漫画本当に好きだ。腱鞘炎とか気をつけて長生きして多くの作品を世に送り出して欲しい。
やっぱり年齢差とか文化の違いに引っ掛かる人がいるね。
エマもそうだけど今回の作品も自分とは違う文化・考えの世界に浸るのが面白いと思って読んでるからこういう意見の人もいるんだね。

嫁心ついたね、は良い台詞だった
ナイスばっちゃ!

3巻のあれ4巻でどう生かされるのだろうね、読んでて素ではあ?言ってしまった

>彼女が彼を護るべき!あるいは、少なくとも彼はもっと(彼女といる事で)安らぐようになるべきでは。
>ステレオタイプな性別関係(か弱い女性と強い男性)がロマンスへの唯一の道であるという考え方は面白くない。

どう見てもこの人のほうがステレオタイプだよな

まったく毛唐どもはこれだから嫌になる。
自分達の価値観がすべて正しくその範疇外のモノを一切認めない。
なぜこいつらの世界はこれほど狭いのか・・・
この作品の醍醐味は現代と当時の習俗や生活習慣、価値観の違いを楽しむことだろう。
個人の知る常識や倫理や道徳なんてものは極めて狭い世界でしか通用しない。
国や地域が違えば180度転換することだってある、まして時代が違うならなおのことだ。
その新しい世界に触れた時になぜ自分達が正しく、相手側が間違っていると思えるのかが解らない。

>彼は子供なんだから!

これ言ってるコメント、なんか似非フェミっぽくて嫌だなあ。強い男とそれに守られる女、なんて解釈になるの?あのエピソードが?
まあ俺もカルルクをああいう形で活躍させるのは蛇足気味には感じたけど、少年の気負いとか健気さとは解釈できないもんかねぇ。

あとスミスの視点でまとめたのを「外部からの観察者云々」と言ってるけど、二人の年の差をどうこう言うのは外部からの視線じゃないんかい、と。

この作品で登場人物の年齢にケチつけるのって意味ないと思うけど。
時代も国も違うんだから、価値観まったく異なるし。

「子供だから守るべき!」って・・・
カルルクは今はあの年齢だからこそ、あと数年で大人の男になっていく
その成長ぶりに最初は姉さん女房らしくリードしていた(結構天然で振り回してたよね)
アミルがカルルクに惹かれていくのがいいんじゃないか。

それに二人の関係は「ステレオタイプ」(か弱い女性と強い男性)ではないよなあ、反対だからこそ面白いのに。
何年かしたら逆転するんだろうけど、今はその過渡期を描いてるんだから、そこを楽しまないと。

この人は巻末漫画みたいな絵が一番が好きだ

>しかし、この民族の物語はこれから倫理的でいられるのだろうか。
>それとも掟は常にその力を行使する物語となるのだろうか。
>私としては後者であって欲しくは無い。

倫理的ってそれはお前の知る限られた世間での倫理感だろうが、
時代も地域も違う舞台世界にお前の価値観を押し付けるなよ。

子供だから守るべき!はないわー。
だってあの文化の中では一応成人扱いじゃないの?
本人もしきりに魔除けの服を着させるアミルに「子供みたいで恥ずかしい」って訴えてたし。
ほんと自分の狭い価値観でしか考えられないんだね。
それにステレオタイプを嫌うステレオタイプの典型だわ。

同人誌即売会でイラスト本売ってた作者をスカウトしたビーム編集部はほんと先見の明があるなぁ

絵を描くのが好きなどころか、線を引くの自体が好きなんだろうな

>ステレオタイプな性別関係(か弱い女性と強い男性)がロマンスへの唯一の道であるという考え方は面白くない。
これ西洋らしくて面白い感想だね
日本とかアジアってやっぱり男性が女性を守ってくれるものだと思ってて、年齢はあんまり関係ないかな
おかげでなんだかんだ言っても男性を尊敬してるし、素敵だと思うけどw
小学生男子が坂道エスコトートしてくれたり、幼児男子が犬から守ってくれようとしたりされたなあ、性的な事は置いといて男女の意識ってアジアだとちっちゃくてもしっかりとあるよね

現在の欧米の倫理観は置いといて見て欲しいなぁ。

現代西洋人の価値観でこの物語断罪しちゃうのか~

>彼は子供なんだから!

このコメントの人、3巻読んだらどうなるのかねぇ。
結婚観とか父親の発言力とか、色々と「違う」話になってるんだけど。

読者に対するそれと同様、キャラクター間の文化的差異についても結構描写されてるんだけどね。スミスは言うに及ばず、町の住人が何故カルルクの家に加勢するのかアミルの実家の連中には理解できない、みたいな描写はスルーされてるんだろか。

逆にそういう実家から嫁入りしてきたアミルが、結果的に実家を捨てる形になった事に対する内面の描写がないのに少し引っかかるかも。アミルの天然キャラと話の勢いの良さであまり気にならないけど。

本当に良い作品!
当時の様子、文化、風習など色々詰め込まれていて
毎度、物語の中へ引きづりこまれてしまう。
絵は細部まで丁寧に描かれていて、美しい!
文句なしの作品です!

時代も地域も文化の差も考慮して読めないんならこの漫画読むのは止めたほうがいい
いかなる背景の物語であれ現代の欧米の価値観でしか測れないようなら現代文学やらハリウッドだけみてて欲しい。

お前ら手厳しいなw
まぁ価値観の違いなんて理解しててもそうそう認められるもんじゃないよ
日本ですらキノコかタケノコかの価値観の違いをお互いに認めることが出来ず血で血を洗う争いが続いているんだから

俺の感覚だと子供に読ませてあげたいなと思ったくらいだったが、外国人からするとトンデモになるってのは全く理解できんな。ケレン味のないテーマの置き方と絵のマッチングがこれほど良い漫画は早々ないぞ。

歳の差云々言ってる奴は本当にバカじゃないのコイツと思ってコメ欄覗いたら同意見多くてワロタw
「不明」ってなってるけど、自分の価値観の普遍性を1mmも疑わないコイツはきっとアメリカ人女性!

決めつけは良くないよ。
そもそもその人に届かない場所で、そんな言い方したらタダの差別w

でも描かれてるものは、現代と比べたらイレギュラーなものばかりで
そのギャップが楽しめない人は損だよね。

三巻目のなんともいえない切なさは素晴らしかったな。
ハリウッドなら「ここで一波乱あってからハッピーエンドに向うところ」があれだもん。
たぶん英語版の三巻目のレビューは荒れる。
すくなくとも彼は罵られるんだろうな。チキンとして。
善良な一人の旅人ができる範囲のことをしただけなのに。


1巻感想で花婿の年齢にひっかかてた人たちは2巻はやめといたんだろうな。
倫理観がギャーギャー言ってるコメも一人だけだし。

残ったやつらも、3巻のストーリーに耐え切れるかな?ハハハ

>彼は子供なんだから!

自分はリアルだったら引くけど、当時のモンゴル、しかも漫画だからなあ…

乙嫁語りは児童虐待!!とか女性蔑視とかなんか言ってきそうでコワいわ・・・

自分達の文化感をまっすぐに異文化漫画に臆面無くぶつけられる彼らはたいしたもんだ
対話の末に折衝できるならだけど

まあ……カルルクがいくら男として強くなっていったとしても、アミルが弱々しい守られるだけの嫁になっていくわけもなく
男だから女を護るべき、とかいう話じゃなくて単に互いに不足しているものを身につけていってるだけというか
子供云々は論外だわな、あの世界では結婚すれば一人前の大人なのだから
力及ばないとしてもやれるだけの事はやらないと

歳の差とか正しいとか間違ってるとかじゃなく行間を読むっつーか
登場人物たちの心情を感じ取るような楽しみ方はできないのかな

「エマ」だって、児童虐待や人身売買のシーンや「女に教育いらない」って台詞あるのにねえ
でも、それは時代背景を思えば不自然でもないし

昔は若いうちに出産して沢山産まなきゃってのはよく聞くけど
男と違って女は妊娠する年齢と出産に耐えれる年齢がイコールじゃないから
早く妊娠させるってことで少年と出産可能な年齢の姉さん女房っていうのも
よくあるパターンって聞いたな>年齢差

ばっちゃんがイイよ

森さんの描く老人は本当にイイね

日本だってアマゾンレビュー見れば奇天烈なこと言ってる奴沢山いるだろ。
欧米の価値観なんて批判してる方も狭い価値観でしかない。

3巻はどーだろう・・・w耐えられなそうだなこの方々
自分も理解はできるが納得したくないってのがあったしね
納得出来ないのは旅人と読者の自分だけ、味方してくれるだろうと思った主人公達はよくあることと当然のように受け入れている。自分との温度の差は読んでてやばかった

読者に媚びずに表現したいことを描ききる作者は凄いね

だから正しい感想読みたかったら日本人のでいいだろ
なんでわざわざ外人にまでそんなの押し付けて悦に浸ってんのか

そっくりそのままお前に返すわ

っt

価値観の押しつけが大好きな外人様は
日本の漫画を読むきじゃない
勧善懲悪のハリウッド映画見てりゃいいよ

価値観の相違と普遍的な部分を楽しむ漫画だろ?
違いが受け入れられないなら読むべきではないね

>彼は子供なんだから!

そりゃあ自分たちの基準で考えてるだけでしょう
あの世界ではカルククはしっかり大人の扱いであり、だからこそ結婚だってしてるんだから。
ぜーんぶ自分基準の価値感で語ってるねこの人

現代日本でも、未成年が結婚したら成人と扱われるんじゃなかったっけ?
選挙権や禁酒喫煙とかは未成年枠だけど、借金とかは成人枠(親の同意なしで契約できるし未成年だからと親が無効にはできない)
結婚した事で、もう子供という守られる側ではなくなるんだよ

19世紀のみならず、現代でも倫理観が違うんだろね
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